『褐色の文豪』はさすがに伝記色を帯び、エピソードがやや断片的ではあるもののの、デビュー作で一躍パリでスターダムに上がるシーンは読み応えありました。劇作家を共に志す竹馬の友の存在が、デュマの成功に、陰影と深みを加えます。「同じように才能があるはずなのに、なぜ?」
確かに才能あるひとや上手なひとはいます。でもその人数もごまんと下らないのです。そして、上を志す世界では、それがあって当たり前の世界。そこからさらに上に行くには、それを活かすための戦略、戦術が必須となるのです。
デュマが持つのは、将軍だった父親譲りのガッツとタフネス。デビュー目指して持てる縁故(これも戦術です)を駆使して辿り着いた最終審査。結果は×。付き返された原稿を手にしたとき、普通は絶望まっくらになるところを、涙を流して「ありがとうございます。おかげさまでさらに自分はやる気になりました」とのたまい、2週間後に新作を書き上げ、そして今度は作品自体が有無を言わさぬ力をもってデビュー大成功に結びついたのでした。もんのすごいパワアだと思います。